高瀬 悠人 「スマホの中の、薄い光」第1話 「濁った光を手にして」

アパートは、駅から徒歩15分ほど離れた、築30年の木造建てだ。
夜になると、廊下の蛍光灯は半分が切れていて、足元がやけに暗い。

鍵を回してドアを開けると、すぐにワンルームの空間。
ベッドと小さなローテーブル、薄型テレビ、そして本棚代わりの段ボール箱。
掃除は、していないわけじゃない。ただ、整える理由がないだけだった。

缶チューハイをテーブルに置き、スマホを充電ケーブルに繋ぐ。
そして、無意識のように、また画面を開いた。

ゲーム、SNS、動画アプリ。
どれも無数にコンテンツを差し出してくるけれど、何一つ、悠人の空白を埋めることはなかった。

そんな中、ふと、インスタの通知が目に留まった。

「おすすめユーザーに友達がいます」

表示されたのは、高校の同級生だった。
名前も、顔も、覚えている。
確か、進学校に進んだ奴だった。

試しにタップしてみると、そこには、スーツを着た彼が、家族と微笑む写真が並んでいた。
「娘の誕生日!」「マイホーム購入しました!」
そんなハッシュタグが、明るい色を塗り重ねる。

思わず、スマホをテーブルに伏せた。

高瀬 悠人 「スマホの中の、薄い光」 第2話 「まだ、終わりじゃない」

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